京急天空橋駅前に羽田空港跡地があるのをご存じでしょうか。約53haで東京ドーム11個分に相当する土地です。
ここには戦前3町約3,000人もの方が住んでいました。実は私の母の本籍地もそのうちの一つ羽田鈴木町です。東洋一と言われた屋外プールや競馬場、球場なんかもあり大変にぎわっていたそうです。敗戦で1945年にGHQにより48時間以内の退去命令が出され、行く当てもなく町民は退去させられました。1952年には大部分が返還され「東京国際空港」となり、その後航空機の墜落事故が相次ぎ、1973年大田区議会は全会一致で「羽田空港撤去決議」を挙げました。対応を迫られた国は滑走路の沖合移転を決め、国際線は成田空港へと移っていきました。その中で国と東京都、大田区、品川区は協議を行い「跡地を東京都が取得をし大田区民のために使用させる」との合意を交わしました。
しかし、大田区はこの合意を反故にして「東京都がいつまでも買わないから」と2018年臨時議会でこの土地約5.9haを165億円で購入を決議(もちろん共産党は反対しました)。鹿島建設を幹事会社とする企業グループ「羽田みらい開発㈱」に土地を1カ月600円/㎡で貸し出しを決めました。分かりにくいと思いますが駐車場が1台当たり約12.0㎡ですので約7,200円です。大田区で1カ月この値段で駐車場が借りられますか?
安倍政権(当時)の国家戦略特区での事業です。そして「インバウンド事業の柱に」とHICITYの工事が開始され、オリンピックに間に合うようにと2020年7月に一期工事が完成しましたが、現在の様子はというと・・閑古鳥が鳴いています。土地を貸しているのに、大田区はこの第1ゾーンの建物内に17ブースを「区内の中小企業と海外・国内の事業者をマッチングさせる」との触れ込みで羽田みらい開発㈱から借りています。その賃料は1カ月約2,400万円。実はまだ1社しか決まっておらず(2021年5月現在)残りの賃料は大田区が肩代わりして払い続けています。1年間で約2億円にものぼります。
HICITYが完成し、地元の方と話しても「自分たちの生活に全く変化はない」とのことでした。現在では事実上負の遺産となってしまっています。
コロナ禍による世界的なパンデミックで今後インバウンド需要がどの程度戻るのかは不透明です。最低でも数年は戻らないのではないでしょうか。そして、そのころにはオンラインでのビジネスモデルが完成しているでしょう。さらには区内業者は今を乗り越えるのがやっとで「国内、海外業者とのマッチング」のために高い賃料を払ってまでここへ進出する余裕はあるのでしょうか?
早晩、羽田みらい開発㈱より償還計画の見直し(土地賃料減額など)が提案され「事業者に責任はない」と大田区は了承してしまうのではないかと心配しております。何といっても原資は区民の貴重な税金なのですから。